東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)180号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 引用例の記載内容が構成A及びBに関する部分を除いて審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがなく、右記載と前記本願発明の特許請求の範囲及び成立に争いのない甲第五、第八、第一四号証(本願の出願当初の明細書、昭和五三年五月一〇日付及び昭和五六年九月一六日付各手続補正書)、第一〇号証(引用例)によれば、(イ)本願発明も引用例記載の発明も多数の電極がセラミツク誘電体からなる薄層をはさんで層状に積層された多層コンデンサに関する発明であること、(ロ)本願発明の特許請求の範囲第一項の発明(以下「本願発明一」という。)は、実施例によれば、未焼成セラミツク材による多数の長方形状の薄層の間に長方形状の易燃性薄片を交互にその一端部(側縁)を露出し他の三か所の複数端部(側縁)を隠蔽するようスクリーン印刷し、これを焼結して薄片を焼失させその占める部分を空間とし、かくて右空間の上側と下側の薄層をその三か所の複数端部において一体的に連結するが、前記端部以外の一か所の端部では連結しないようにしてA構成を備えたコンデンサ製造用単一焼結セラミツク体(以下単に「セラミツク体」ともいう。)の発明であること(右空間は電極材料の供給を受けて電極となる。)、(ハ)右のように、本願発明一のセラミツク体は空間をはさむ薄層が複数端部で連結されているから、これが一端部で連結されている場合に比し、空間及びそこに形成される電極を強固に保持することができるとともに、右連結した端部により電極を隠蔽することになり、異なる電極間の短絡を防止することができるから、一端部で連結のものと異なり特に絶縁材料で電極を被覆しなくても用途に供し得ることが認められる。
なお、右の(ロ)の事実は本願発明の実施例に基づき認定したものであるが、本願発明一において、薄層間に隣接する二側縁を交互に露出させた薄片をはさみ、薄片焼失による空間を形成した場合には、薄層は二か所の複数端部で連結し、他の二か所の端部では連結しないが、かかるセラミツク体もA構成を備えていることに変りはない。しかし、後記のように審決は引用例のセラミツク体について薄層が三か所の複数端部で連結しているA構成の記載があると認定していると解されるから、以下においてA構成とは薄層が三か所の複数端部で連結している構成を指すものとする。
三 取消事由(1)について
原告は引用例記載の発明がA及びB構成を備えていないと主張して審決の引用例の記載についての認定を争うものであるが、前記のように本願発明一がA構成を備えたコンデンサ製造用の単一焼結セラミツク体であるので、これと引用例記載中の単一焼結セラミツク体に関する記載部分(審決の理由の要点2(イ)に摘示された部分で、前掲甲第一〇号証によればこのセラミツク体もコンデンサ製造用のものと認められる。)を対比し、右単一焼結セラミツク体がA構成を備えているか否かについて検討する。
1 当事者間に争いのない引用例の記載内容及び前掲甲第一〇号証によれば、引用例記載の単一焼結セラミツク体は、長方形状の易燃性薄片1を未焼成セラミツク材による多数の長方形状の薄層2間に交互に積層し、これを焼結して薄片を焼失させその占める部分を空隙5(空間)とすることによつて製造されるものであること(右空間は電極材料の供給を受けて電極となる。)が認められる。
そして、別紙図面(二)(引用例の図面)の第1図によれば、符号4で示される側縁は露出しており、この記載と当事者間に争いのない記載甲の「他の側縁4は内部に隠蔽するように組立て」とある部分は明らかに一致しないが(この不一致は記載甲に関する被告の解釈によるも生ずる問題であり、この点は後に検討する。)、その点はしばらく措くとして、易燃性薄片と未焼成セラミツク材による薄層を交互に積層するに際しての薄片の露出部分、薄層の端部連結部分については、別紙図面(二)(引用例の図面)の第1図(符号4については後述する。)及び第2図による限り、薄片の対面する一対の側縁を交互に露出、隠蔽し、他の一対の側縁を露出させて薄層間にはさみ(一側縁隠蔽、三側縁露出)、これに伴い上下の薄層は、薄片の隠蔽された側縁をはさむ端部においてのみ連結し、他の三か所の複数端部においては連結しておらず(第1図)、したがつて薄片焼失後の薄層の連結状態も右同様一端部においてのみ連結し、他の複数端部では連結していないものということができる(第2図)。(後述2(b)参照)
このように、別紙図面(二)の第1図及び第2図の記載自体からは、引用例記載のセラミツク体がA構成を備えているものと認めることはできないのである。
2(a) 被告は引用例の記載甲について、同記載中の「側縁3」と「側縁4」を互に直交する一対の側縁と解し、薄片を薄層に積層するに際し、一対の側縁3(前後方向)を交互に露出、隠蔽させ、これに直交する他の一対の側縁4(左右方向)は常に内部に隠蔽されるとの意に解釈すべきである旨主張し、審決も同記載をそのように解してセラミツク体に関する引用例の記載を認定したものと推察される。
右解釈と審決が引用例のセラミツク体に関し「順次の空間はセラミツク体の反対側端部に交互に開口を有する単一焼結セラミツク体」と認定したことに照らせば、審決は、引用例のセラミツク体は薄層が三か所の複数端部で連結し、一か所の端部で連結しない構成、即ちA構成を備えているものと認定したと解される。
しかし、右のような記載甲の解釈は前記1に述べた第1図及び第2図が示すところと明らかに一致しない。
被告は、かような不一致に関し、第1図及び第2図は薄片と薄層の積層状態及び空間の形成される状態が容易に理解されるように示したものである旨主張する。被告の主張するような図面としては例えば、第1図及び第2図がセラミツク体の左右方向(手前側)の縦断面図である場合が考えられるが、前掲甲第一〇号証によるも、引用例には図面の簡単な説明として「図面は本発明の実施例を示すもので、第1図及び第2図はその製造工程における中間製品の斜面図」である旨の記載(第一欄一七行ないし一九行)があることが認められるにとどまり、右第1図及び第2図が縦断面図であることを示す記載もなく、その他これら図面が被告主張のような趣旨の図面であることを示す記載も見出すことはできない(右の「中間製品」とは、引用例が「多層コンデンサーの製造方法」の発明であるため、コンデンサー製造工程において電極となるべき空間を形成するに至るまでのセラミツク体、即ち薄層の間に交互に薄片をはさんで積層した状態にあるセラミツク体(第1図)、右薄片を焼失させて空間を形成した状態にあるセラミツク体(第2図)を指すものと解すべきもので、もとより「中間製品の斜面図は」被告が主張するような趣旨の図面を意味するものではない。)。
(b) また、もし、セラミツク体の左右方向(手前側)の断面図により引用例記載のセラミツク体がA構成を備えていることを示すとすれば、第1図及び第2図を別紙図面(四)の第1´図及び第2´図のように薄層の左右方向の他の端部が連結しているように、換言すれば、左右方向の他の端部には薄片及び空間が隠蔽されているように記載するのが正確性が要求される明細書として当然である(このことは第1図及び第2図が斜面図であるとしても同様である。)。しかるに、現実には第1図及び第2図のような記載にとどまつていることは、引用例のセラミツク体がA構成を備えたものとして記載されていないことを意味するものということができる。
3 このように、被告の主張する引用例の記載甲及び図面の解釈には不合理な点がある。かかる不合理は、記載甲の「側縁3」を対面する一対の側縁、「側縁4」をこれと直交する一対の側縁と解し、また、第1図の符号4で示される側縁があくまで隠蔽されているとして、第1図及び第2図を引用例の「図面の簡単な説明」の項に記載されているとおりの斜面図とは見ず、例えば断面図のような薄層の積層状態及び空間が形成される状態が容易に理解できるように示した図面と解したことに由来するものというべきである。
そこで、この不合理を避けるため、前掲甲第一〇号証によつて認められる「……薄片と、……未焼成セラミツクとを交互に、且薄片をその側縁を交互に反対側面に露出させて積層し」との記載(第一欄二八行ないし三一行、第四欄五行ないし八行)を参酌して記載甲を解釈すると、同記載の側縁3、4は直交する側縁ではなく対面する一対の側縁であり、「3」は交互に露出する側縁、「4」はこれに伴い交互に隠蔽される側縁を指すものと解することができる。そうすると、他の一対の側縁については同記載中にふれるところはなく、前掲甲第一〇号証によるも、引用例の発明の詳細な説明中にもその記述を見出すことはできないから、引用例中には他の一対の側縁に関する文章上の明示的な記載はないものというほかない。
次に、図面については、引用例に記載されているとおり「中間製品の斜面図」と解すべきであり、かつ記載甲には側縁4が隠蔽される旨説明されており、他方図面は明細書の補助的説明の役割をするものであることに鑑みれば、第1図の符号4は、図面上現実に隠蔽されている別紙図面(三)の原告主張の側縁を示すべきところを別紙図面(二)の第1図のように誤記したものと認めることができる。そうすると、側縁3、4と直交する他の一対の側縁については、前記のように記載甲に明示的な記述がないから、図面の記載からみて露出してしまうものと解される。
また、コンデンサの電極となる空間をはさむ薄層を複数端部で連結するA構成が一端部で連結する構成に比しすぐれた効果を奏することは、前記二(ハ)に認定したとおりであるから、引用例記載の発明においてもかかる効果を奏するA構成を採択したのであれば、少なくともその構成そのものは誤解のないように明細書に明示的に記載するのが通常であると考えられる。しかるに、既に検討したように、引用例のセラミツク体がA構成を備えていることを示す明示の記載を見出すことはできない。
そうであれば、引用例には、薄片の露出部分、薄層の端部連結部分につき、前記1で認定したとおりの構成、即ちA構成とは逆の構成が記載されているものと認めるのが相当である。
4 被告は、本願出願前の技術常識によれば引用例にはセラミツク体についてA構成の記載があると認めることができる旨主張する。
被告主張の異なる電極間の短絡防止に関する(ロ)の技術のうち、(ロ)の技術が本願出願前である引用例出願当時において当業者間で技術常識であつたことが当事者間に争いのないことは、弁論の全趣旨に照らし明らかなところである。しかし、(ロ)の技術が引用例出願当時においても技術常識であつたことを認めるに足りる証拠はない。右技術は成立に争いのない乙第一号証(特開昭四六―二八七四号公報、同年一〇月二二日公開)、第二号証(特公昭四七―六一六八号公報同年二月二二日公告)、第三号証(特開昭四七―三四九〇五号、同年一一月二二日公開)に記載されており、基本的には薄層の複数端部を一体的に連結することにより電極(空間)を隠蔽し、異なる電極間の短絡を防止する本願発明の技術と共通するものではあるが、右乙号各証が公開又は公告されたのはいずれも引用例の出願後であるから、右(ロ)の技術が技術常識であることを前提として引用例の記載を解釈することは誤りである(引用例記載のコンデンサにおいては(ロ)の技術により異なる電極間の短絡を防止していたものと推認することができる。)。
5 なお、以上は審決が認定し被告が主張するように引用例のセラミツク体の薄層が三か所の複数端部で連結するA構成を備えているか否かを検討したのであるが、本願発明一による他のA構成、即ち二か所の複数端部で連結する構成についても、前掲甲第一〇号証を検討するも、引用例のセラミツク体が右構成を備えていることをうかがわせる記載はない。
四 以上述べたところによれば、本願発明一が備えるA構成を引用例記載の発明も備えているとして、この点において両発明の構成が一致するとした審決の判断は誤りであり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものといわざるを得ない。
五 よつて、その余の点について判断するまでもなく審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 「密実な誘電性材料の複数の重畳された薄層からなり、前記薄層は相互に離間された隣接表面の実質部分を有してその間に実質的に障害物のない厚さ〇・〇〇七~〇・〇四ミリメートルの薄い空間を形成し、前記空間の上側と下側の前記薄層をその複数端部において一体的に連結すると共に前記端部以外では実質的に連結しないようにし、セラミツク体が前記空間のそれぞれに対する開口を有し、順次の空間は連通する開口をセラミツク体の異なる端部に有するコンデンサ製造用に適する単一焼結セラミツク体。」
2 「複数の重畳された薄い誘電層と複数の薄い金属層とからなり、前記誘電層は密実なセラミツク材料を材質としかつその複数端部においてのみ一体的に焼結されてモノリチツクマトリツクスを形成し、前記各金属層は隣接する一対の前記誘電層の間に介在すると共にその一端部のみを前記マトリツクスの端面まで延在させて露呈させ、前記金属層は〇・〇〇七~〇・〇四ミリメートルの厚さを有しかつ鋳造金属の特性を示す構造を有すると共に障害物を実質的に含まず、前記金属層の金属は前記誘電性セラミツク材料を焼結させる際に用いられる最高温度よりも低い融点を有しかつ前記金属層に対する電気的接続を有するコンデンサ。」
3 「複数の重畳された薄い誘電層と複数の薄い金属層とからなり、前記誘電層は密実なセラミツク材料を材質としかつその複数端部においてのみ一体的に焼結されたモノリチツクマトリツクスを形成し、前記各金属層は隣接する一対の前記誘電層の間に介在すると共に前記誘電層よりも小さい面積を有しかつ前記マトリツクスの一端部においてのみ露出する端部を有し、隣接する金属層は異なる端部に露出した端部を有し、前記金属層は〇・〇〇七~〇・〇四ミリメートルの厚さを有しかつ鋳造金属の特性を示す構造を有すると共に障害物を実質的に含まず、前記金属層の金属は前記誘電性セラミツク材料を焼結させる際に用いられる最高温度よりも低い融点を有し、前記金属層に対する電気的接続を有するコンデンサ。」(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
別紙図面(二)
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別紙図面(三)
<省略>
別紙図面(四)
<省略>